【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第8章 メモリー
『…とまぁ、こんな感じかな?思い出した?』
「ん?あぁ、なんとなく…」
3杯目のバーボンに口をつけるころ、
時計は日付の変わる時刻になっていた。
『思い出してて気が付いたけど、僕の初恋、マデイラちゃんかも。
兄さんもそうでしょ?』
「…俺が?」
『だって、あんなに優しい目をした兄さんあれから見たことないもん』
「フッ…どうだかな。もう忘れたよ…」
あっ、さっきの話、由美タンには内緒だよ?
と、赤井に口止めをすると秀吉は電話を切った。
これはただの思い出話ではない。
ウィスキーグラスを持ち、赤井は一度書斎を出ると
キッチンへ向かった。
まるで図書館のようなあの場所でタバコを吸うのは
気が引けるからだ。
暗く、長い廊下を一歩ずつ進む。
それはまるでマデイラの真相に迫っているかのようだった。
(胡桃色の髪…琥珀色の瞳?)
カラン、カラン、と歩を進めるたびに
ウィスキーグラスに氷のあたる音がする。
(今のそよ香は髪も瞳も黒い…
染めたりコンタクトをつけている様子はなかったが…)