【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第8章 メモリー
「マデイラ、秀吉に顔を見せてやってくれないか。
とても心配しているんだ…」
震える小さな手で握っていた秀一の服が緩むと、
少しだけ肩が軽くなった。
涙で濡れたマデイラのまつ毛の上には
朝露のように清らかな雫が乗っている。
秀吉は持っていたハンカチでそっと拭くと、
目元にキスをした。
「どこか痛いところはない?」
首を縦に振って返事をすると
また秀一の肩に顔をうずめる。
「…最後に3人で観覧車に乗らないか。
今日を嫌な思い出で終わらせたくはないだろう?」
うんうん、と秀吉も隣で頷く。
「マデイラ?」
「うん…」
「よし。ほら秀吉、手を出せ。
お前まではぐれたらかなわんからな」
左腕でマデイラを抱き上げ、立ち上がると
右手を秀吉の前に差し出した。
「ぼ、僕もうすぐお兄ちゃんになるんだから、大丈夫!」
「…なんだ、照れてるのか?
お前はいくつになっても、俺の可愛い弟だ…」
秀一は返事も待たずに秀吉の手を取り、歩き出した。