【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第8章 メモリー
「いや、俺はいい…ここで待っているから
2人で行ってこい」
はーいと元気よく返事をすると
2人は手を繋いで駆け出して行った。
弟が子どもらしくはしゃぐ姿を見るのも
たまには良いものだ…そう思いながら
秀一は携帯電話を取り出し、電話をかけた。
「…もしもし、母さん?
マデイラのことなんだが…」
*
*
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黒を基調としたノスタルジックな純喫茶に入ったのは
ちょうどお昼の12時を回ったころだった。
「姉さんどう?こういうところ、雰囲気があって良いでしょ?」
「そうね、イギリスのカフェとは違った趣向で」
テーブル席が3つと、カウンター席が4つしかなく、
老夫婦が営むそこには日本の歴史さえ感じられた。
「エレーナ、どうなの研究の方は?」
「順調よ…お金も、研究施設も何も心配しなくていいの。
今までの努力は無駄じゃなかったのね…」
前向きな言葉とは裏腹に
妹の顔に影が落ちるのが気になる。