【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第8章 メモリー
23時を過ぎたころ
そよ香の部屋に取り付けたインターネットカメラが動いた。
やっと寝る気になったようだ。
ウイスキーグラスに2杯めのバーボンを注ぐと
沖矢は変声機のスイッチを切り、電話をかける。
「…もしもし、秀吉か。俺だ」
『に、兄さん!?どうしたの?電話して大丈夫なの!?』
「あぁ、問題ない。それよりおめでとう、太閤名人…」
『ありがとう…まさかそれを言うために?』
死ぬか生きるか、騙すか騙されるか
油断ならない生き方を選んだのは自分だが、
たまにはこうして弟の立派になった姿を祝うことくらい
許されるだろう。
「祝杯でも…と思ったんだが。
最近、気になるワインがあってな…」
『それは嬉しいけど…現実的じゃないね。
どんなワインなの?』
「マデイラというワインだ…
甘口から辛口まであるからな。秀吉でも飲めると思うぞ」
『ふぅん…僕、お酒はあんまりだからな…
マデイラってワインの名前だったんだね。
…マデイラちゃん、元気かな?』
口に含んだバーボンを飲み込むと
秀吉が思いもよらない言葉を口にする。