【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第1章 点と点
行き場の無くなった手をひっこめて、
声の主を見ると
柔らかいブラウンのスーツがよく似合う
長身の男だった。
スーツの中には、襟元に白いラインが入った
ネイビーのワイシャツを選ぶ辺り、
彼のセンスの良さがうかがえる。
目は細いが、人当たりの良さそうな笑顔を
初対面のそよ香に向けた。
フレームの細い、コンパクトなメガネが
知的な印象だ。
「いや、ここはレディファーストにしましょう。
見たところ貴女はお仕事でお疲れのようだ…
チョコレートのスイーツなら他にもありますし
…では、僕はこれで」
「えっ…!あの…!!」
そう言うと、男は何も買わずにコンビニから
出て行ってしまった。
入れ替わりに安室が近づいてくる。
「お知り合いですか?」
「いえ…あの人もこのエクレアを買いに来たみたいなんですが
最後の一個だったので、譲ってくれました」
「ホォー…では、それを買って帰りましょうか」
「はい!ありがとうございます」
街灯やファッションビルの立ち並ぶ大通りから
1本脇道にそれると
そこは一気に住宅街へと姿を変える。