【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第7章 パフォーマンス
振り返ったそよ香の瞳は濡れていた。
「そう、ですね…」
逃げるように階段を一気に駆け上がると、
そよ香は自室へと閉じこもって鍵をかける。
「……俺も大概だな」
沖矢はやり場のなくなった手を
ズボンのポケットに突っ込んでリビングへ足を向けた。
*
*
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枕に顔を押し付けると、
ぽろぽろと涙が溢れてきた。
(どんな関係でもない、か…)
唇を重ねたのも、沖矢の愛撫を受け入れたのも、
流されてしまった結果とは言え
そよ香には特別な行為であったのは間違いない。
しかし沖矢にとっては、
気まぐれの暇つぶしでしかなかったのかもしれない。
それなのに、沖矢のあの言葉がどうしようもなく
そよ香の心を痛めつけるのだけは分かった。
(苦しいよ…)
止めどなく溢れてくる涙を
そよ香は感情のままに流し続けた。