【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第6章 一歩先*
「春野さんが有休で休むって連絡があった日から
所長なんかおかしいの。
社員全員に有休取らせ始めたり、
冠婚葬祭の休暇もすぐとれるようになったのよ」
「へ、へぇ~そうなんですか…
私は…何も……」
一瞬、そよ香の頭にいたずらっぽく笑う沖矢の顔が
思い浮かんだが、
先輩に説明するのも面倒で、口にすることはなかった。
「そういえば総務の田中君、辞めたみたいよ」
ドクン、と心臓が波打つ。
「え…あ、そう、なんですか…」
それまで規則正しく脈打っていたはずの心臓が
突然乱れる。
息苦しささえも感じ、先輩の声が遠のいていく。
「春野さん、大丈夫?
まだ調子悪いんじゃないの?」
「…す、すみません。大丈夫です!」
自分をごまかそうとパソコンの電源をつけるが、
マウスを持つ右手が震え、ポインタが定まらない。
この1週間、いろいろなことが起こりすぎた。
忘れたくても忘れられない傷ばかりが増える。