【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第6章 一歩先*
そよ香が工藤邸に住むことになって数日が経ち、
無事仕事に復帰することができた。
全くの他人と寝食を共にするのは
想像がつかなかったが、
沖矢の穏やかな性格と、細やかな気づかいが
そよ香の心を優しくほぐしていくのは
確かだった。
そして何より、毎朝目が覚めて
「おはよう」と言い合える相手がいることに
心の底から安心することができた。
「そよ香ちゃん、体調大丈夫?」
「はい、おかげさまで元気になりました。
ご迷惑をおかけしてすみません。」
出社をすると澤木所長が声をかけてきた。
「所長、有休ありがとうございました。」
そよ香がそう言ったとたん、
所長の顔が瞬く間に青ざめていく。
「ま、まままぁ、社員に有休を取らせるのは、
あ…あた、当たり前だよ!!
ははっ…!!ハハハ!!」
ぎこちない足取りで
自分のデスクに戻った所長は
怯えた目でチラチラとそよ香を見る。
「??」
「春野さん、所長に何か言ったの?」
隣の席の先輩がそよ香にこそこそと話しかける。