【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第5章 君のため
「……」
スマホを握るそよ香の手に力が入る。
くつろげる自宅に帰ってきたはずのに、
もうそこは恐怖の沼と化していた。
小さくなる沖矢の背中に向かって
そよ香は走り出す。
「待って…沖矢さん…!」
腕を掴もうとしたその瞬間、
沖矢が振り返りそよ香を受け止める形で止まった。
「…何かあったんですね?」
「……」
小さく頷くそよ香の顔は見えない。
「僕も一緒に入って良いですか?」
返事の代わりに、
そよ香はエントランスの自動ドアを開けに行った。
*
*
*
「これは…」
沖矢はそよ香の部屋をキョロキョロ見回す。
室内の不自然な様子に気がついたようだ。
「何か盗られたものは?」
「ありません」
「帰ってきてからどこか触りましたか?」
「…ほとんどそのままです」
そよ香はソファに腰をかけ
肩を落とす。
「部屋の中を見て回っても?」
「どうぞ…」