【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第5章 君のため
(どうしよう…まさかアイツが…)
落ち着いて部屋の中を見回すと
違和感があった。
(綺麗すぎる)
引き出しは開いているが、中身を荒らされた形跡はなく、
床に物が散乱しているということもない。
盗まれたものもなかった。
「誰かが、わざと…?」
__ピンポーン、
「……!!」
静かな部屋にチャイムが鳴り響く。
恐る恐るモニターを確認すると、
沖矢の顔が映った。
__ピンポーン、
「お、沖矢さん?」
インターフォンの通話ボタンを押して話しかける。
「すみません、そよ香さんのスマホが
後部座席に置きっぱなしだったので、引き返してきました」
「えっ…あ、今そちらに行きます」
そよ香は握りしめていたリボルバーを
ビジネスバッグの中に突っ込み、
エントランスへ向かった。
「ありがとうございます。気が付きませんでした」
「僕も気づかず、すみませんでした。では…」
沖矢はそよ香の手にスマホを渡すと
身をひるがえし、離れていく。
コツコツと、革靴のかかとの音が徐々に小さくなっていった。