【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第5章 君のため
ビジネスバッグを持ち、そよ香は沖矢の車に乗り込む。
年齢の割に落ち着いた印象の沖矢からは想像できない
真っ赤な軽自動車だった。
何となく気まずくて、そよ香は後部座席に座る。
昨夜のことは…忘れてしまえたら良かったのにと
何度も思った。
沖矢の腕の中は暖かくて、落とされたキスも嫌じゃなかった。
こんな感覚、前にもあったような…
そんな気がしていた。
「そよ香さんのご自宅は緑台駅の近くですか?」
「あ…そうです。道案内しますね」
沖矢には右左折をする場所を教えるだけで
特に会話はない。
どういうつもりであんなことをしたのか
問いただしたい気持ちもあったが、
言ったところではぐらかされるのがオチだと
そよ香は諦めて流れる景色を窓から眺めていた。
「ここです。沖矢さん、本当にありがとうございました」
「いえいえ。あの広い家に一人暮らしも寂しいなと
ちょうど思っていたところだったので
とても楽しかったですよ。僕は」