【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第5章 君のため
そよ香と出会った日のことは
こんなにも鮮明に覚えているのに
僕は君の苦しみを今も分からないままだ。
「……」
ベルモットにそよ香の情報が欲しいと言ってみたが、
「あなたには関係のないこと…
それよりも言われた通りに動いてちょうだい」
と相手にされなかった。
コードネームを持っている者でも、
そよ香のことを知らされているのは
ごく一部の人間だけということか…
何か手がかりになりそうなものはないか
もう一度記憶を辿ってみる。
そよ香の腕に付いていた無数の小さいアザ。
あれはおそらく注射針の痕だ。
薬物か何か投与されていたのか?
僕がみた限りでは、アザ以外の身体的特徴は
みられなかった。
身長も平均的、少し細身だが病的なものは感じない。
髪も肌も健康的なようだった。
あえて一つ言うのなら、青白いとまではいかないが、
肌は透き通るような白さで、純粋に綺麗だと思った。
あの時は女性なら日焼けが気になるだろうし、
紫外線対策をしているだけだと思っていたのだが…
「…抜かれていた?」