【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第5章 君のため
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「…なんで僕がドライバーなんだ。
ミッションなんて、自動車学校以来だぞ…」
車の持ち主はいつの間にか酒を飲んでしまって
後部座席で爆睡中だ。
「悪ぃな~ゼロ!ヒロは俺のもんだぁ~!」
松田は缶ビールを持ったまま
ヒロの肩に腕を回して陽気に笑っている。
こういう時のこいつは本当に面倒くさい。
「はぁ…ヒロ大丈夫か?
そよ香を降ろしたらこっちに来いよ」
「ありがとう…松田!くっつくな!暑い!」
クスクスと隣で笑うそよ香。
屋上で会ったときとはまるで別人だ。
そよ香の家まで道案内をしてもらっていると
いつの間にか後ろが静かになる。
「本当に、みんな仲良しでうらやましいよ」
「まぁ、毎日飽きないな」
「あ…ここで大丈夫。もうすぐそこだから」
そよ香は深々と頭を下げ、礼を言うと
車のドアノブに手をかけた。
「…そよ香」
「…!なに?」
とっさに腕をつかんで引き留めてしまった。
次に続く言葉にあてはない。
「…おやすみ」
「おやすみ、ゼロ」