【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第5章 君のため
やわらかい砂浜の上を裸足で歩く。
波打ち際に立つと、少しだけ冷たい海水が
足首を浸した。
足の指の間をサラサラと砂が通り抜け
くすぐったい。
「わぁっ!?」
お盆の波は引きが強い。
そよ香の足がもつれ、倒れそうになる。
「そよ香!」
腕を引っ張り、腰に手を回して支えてやる。
「気をつけろよ。ほら、手を繋いでおこう」
差し出した右手をそよ香は遠慮がちに握った。
「…うん、ありがと」
夕日のせいだろうか、そよ香の頬が赤い。
2人の間には心地よい、波の音だけが聞こえてきた。
「ねぇ…ゼロ」
「ん?」
「どうしてみんな聞かないの?
その…私が死のうとしてた理由とか…
このアザのこととか…」
そよ香は目を伏せ、
僕の手をぎゅっと握る。
少し震えているのは、
気のせいじゃない。