【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第5章 君のため
振り向いた彼女は顔色一つ変えない。
今日の最高気温は39度だというのに、
長袖のカーディガンを羽織っていた。
袖を少しだけまくった腕には
小さなアザがいくつもついている。
「…私は生まれてきてはいけなかった。
もう全て、終わりにしたいの」
彼女の目は僕を映していない。
沿岸部特有のじとっとした潮風が肌にまとわりつく。
生ぬるくて、気持ち悪い。
「僕では君を助けられそうにないか」
「助ける?ずいぶん傲慢ね。何も知らないくせに!
私はもう傷つきたくない…誰も傷つけたくない…」
ヒロが物陰に隠れながら彼女に近づき、
下にいる松田と萩原に合図を送る。
「あぁ、知らないな。知る必要もない。
今までの君は、今日ここで死ぬんだからな!!」
「…えっ?」
僕は彼女めがけて走り出した。
予想外の僕の動きに彼女は固まり、
目を見開いている。
その勢いのまま彼女を抱きしめ、
右手で頭を僕の胸に押さえつけると
屋上から飛び降りた。
「…きゃぁぁあぁぁ!!!」