第1章 1.
『私はネハンが好き。ヒューマンとかエルーンとか関係なく、人間同士として私はネハンが好き』
「俺を好きになった所で、が幸せになんてなれるものではない」
少し苦しそうな顔でコーヒーを入れて、私の方にミルクをたっぷりと入れて目の前に置いた。
ブラックコーヒーを目の前にして、ネハンはゆっくりと一口飲む。
「俺は…君の憎むマフィアに居た。しかもただのマフィアじゃない、確実に君の人生を狂わせたマガザンだった。君だけじゃない、多くの人の人生を狂わせただろう。そんな男など好きになるな」
『私は知ってたよ…?ネハンがマフィアで、マガザンに居たって事。話してくれなくても……なんとなく分かってた、』
苦しかった。悔しかった。
知った頃は憎かった。その時はネハンがアフェールに立ち寄らなくて良かった。だって、どんな顔して会えば良かったんだろうって。
──この世界はどうかしている。
でも、悪夢から救ってくれたのはネハンで、ネハンはマガザンに居ながらも略奪も殺しも犯すことも無かった。
『ただ、私の故郷から安全なここに連れて行くだけなら、それだけで手助けは終わりだったのに…どうして私が普通に暮らせるようになっても、ずっと私に会いに来てくれるの…?』
「それは……っ、」
言葉が詰まったネハンは飲もうとしていたコーヒーを置いて、立ち上がる。椅子の背から滑り落ちたジャケット。それを拾い上げて彼は着る。
「……例えば、庇護欲が愛情に変わることも、ある」
『つまり?』
皮の手袋をした左手で口元を隠し、私の側へと寄る。
言葉をはっきりと聞くために私は椅子から立ち上がる。背の高いネハン、見上げた耳が少しだけ垂れている。
……エルーンって感情が耳に出やすくて、少し顔を赤らめるネハンも可愛らしい。
「の事を愛している」
『ほ、本当に…?』