第1章 1.
今回もやってきたネハンに、この島に住むのかと聞いたのには確証があった。
肉屋のドラフのご夫婦からの話。ネハンが空き家を不動産を通して見学し、什器を万屋を通して発注していたのだと。
「早いな、どこからの情報だ……、まあいい。場所はの家から目と鼻の先だ」
『えっ、本当?』
「ほら、すぐそこ。例えば…この島には薬師が居ないだろう?俺はの側で薬を売って行くさ」
嬉しかった。
自分に芽生えたこの気持ちの名前を知っていたから。ネハンが側に居るなんて幸せだ。
何も言えない私を不思議がって覗き込むネハン。少し顔が近い。
「急に黙ってどうした、?」
『わ、近い近い近いっ』
さらさらとした髪、キリッとした瞳。綺麗な造形のネハンにこんなにも近づかれて何の反応もするなというのはおかしい。
ましてや、恋する相手なら尚更だった。
「……例えば、ヒューマン族とエルーン族では子孫を残すことが出来ない。故に、俺に恋愛感情を向けるような事があっても、子供を持たせてやることが出来ない。
つまりは…期待には応えられない」
ジャケットを脱いで、椅子の背に掛けてから、まるで我が家のように戸棚からカップを2つ取り出し、コーヒーを用意しだすネハン。
部屋が香ばしい空間になっていく。
『ネハンは……私の事、どう思ってる?』
私は冷静に、椅子に座ってネハンにどう思っているのかを聞いた。
……無難な所で、同じ境遇の仲間だとかその程度かもしれない。けれども期待をしてしまう気持ちがある。
質問を聞いて、動きを止めるネハン。カップを見つめていた視線は私へと移る。緊張して、少しだけ体を強張らせてしまった。
「例えば…そう。同じ境遇にあるもの同士、か」
『それ以外には?』
「……」
黙り込む彼に、駆け出してしまった私の気持ちは受け止めてくれるまで止まらない。