第1章 1.
──この世界はどうかしている。
「、ネハン、見舞い?」
『…うん、こんにちは、ムゲン』
遠い島でずっと眠り続けるネハン。
ショックだった。彼はこれからだったと言うのに。
私の他にも悲しませていた。ムゲンもネハンに世話になったのだと言う。
甘い香りのする白いバラを彼の眠る側に生ける。アトマイザーに入れた水を花弁に掛けるとゆっくりと花弁が透き通っていく。
初めて見たのか、ムゲンは陽の光を受けてキラキラとするクリスタルローズにはしゃいでいる。凍らずとも美しいから。
「はな、キレイ!」
『私の故郷の花、クリスタルローズっていってね。ネハンが種を持ってきてくれたんだ…』
最後に会った時に貰った種。
成長して花を付けたから、とびきり良いものを大好きなネハンに届けにやってきた。
ムゲンが花をじっと観察している内に、ネハンの側に近付いて勇気を出して軽く口付けた。
この世界はまだ、おかしいけれど、ネハンを待つ人はここに居るから。
だからどうか、早く目が覚めますように。