第1章 1.
「俺も故郷を無くした経験がある。と似たような境遇だ、ただ一人生かされてしまった…」
『ネハンさんも…?』
私達ふたり、地べたに座り焚き木を見つめている。
マフィアの子を成さないように、せっかく作ってくれた薬を何口も分けて少しずつ飲む。
火を見つめるネハンの横顔はとても綺麗で、瞳に映り込む揺らめく炎は復讐にも似た熱さを魅せている。
顔はとても傷一つ無く綺麗なのに、調理中に捲くった腕や、エルーン独特の服装…、さらされた背中には無数の傷があった。
「俺もも似たような境遇だ、そうでなければ本来ならば助けてやる事もなかったろうが……出来る範囲でフォローしよう」
ネハンに初めて優しく微笑まれ、この悪夢から連れ出してくれるという約束。
島を出て、別の島に手を引いて導いてくれる。アフェールという、田舎の島。私の故郷に少しだけ雰囲気が似ていて、島の人は私を快く迎えてくれた。
あの悪夢も、夜にまた見る回数も減って……見たとしても、必ずネハンが悪夢から連れ出してくれて。
「、居るのか?」
『ネハン!ねぇ、ネハンもこの島に住むの?』
アフェールに移り住んだ私の家に最近、よくやって来るネハン。
以前の様な……思いつめたような、燃えるような眼光は落ち着いて雰囲気はとても穏やかになってきていて、前よりも私の家に立ち寄る様になった。
遊びに来る度にヒューマンでありながらも、エルーンの耳みたいに私の心が跳ねていた。初めて逢った時に巻いてくれたあの赤いストールは結局巻いたまま、貰ってしまって今じゃ大切な宝物だ。
その赤いストールに目線がいつも行くのが分かる。それで、私がいつもネハンを側に感じているから、その視線は嬉しかった。一度だけ、またそれを着けているのか、と呆れ気味に言われたこともあった。
私は…理由は言わなかったけれど。