第2章 1
路地裏に入りかかった頃急に雨脚が強くなった。
雨が傘に当たってポツポツと跳ねる音が大きくなる。
そして、私は見てしまった。
静かな夜
私はどんどん大きくなっていく雨の音と目の前の光景しか分からなかった。
いや、目の前の出来事も理解は出来ていない。
人って本当にびっくりすると動けなくなるらしい
人が…
人が死んでいる。
多分。
血が出てる。
死んでるってなんだったけ?
叫びたいのに声もでない。
訳がわからなくなって死んでるであろう人から目を離すと、少し離れたところに人がいた。
多分犯人。
血が付いたナイフみたいな刃物を持って、血まみれの人。
見ただけで危ない人、逃げないとダメだと分かるのに…
目を奪われてしまった。
目が合った。
恐怖で動けなくなったのだとその時は思っていた。
だけど今思うと、私が初めて恋に落ちた瞬間だったと思う。
もう雨の音も聞こえなくなって、目の前の男しか見ることが出来なくなっていた。
「ねぇ~、電話?なってるよ?」
血まみれの刃物を持っている人とは思えない呑気な声が聞こえてきた。
しかし、少し緊張が溶けてしまい、着信音が流れていることに気がついた
スマホを取り出そうと思い鞄に手を掛けると自分が濡れていることに気がついた。
手に持っていたはずの傘は地面に落ちている。
そして、今の状況がハッキリとしてきた。
目の前にいる男は人殺しだ。