第1章 ベルトルト&ジャン(進撃/執着と嫉妬)
「……嬉しくない」
「なんでだよ、良いじゃねぇか。この際コネでもなんでも作って、憲兵に行ったらアイツら利用してやろうぜ」
力なく匙を握った俺の背中を叩く仕草は、乱暴に見えるが案外優しい手付きだ。言葉とは裏腹にそれがジャンなりの労りだと気付いたのは随分と前になる。
希望兵団が同じであった事がきっかけでジャンとは知己となったが、冗談も話せば真面目な話もしている内に、コミュニケーションという面に限っては然り気無く潔癖なジャンが俺に触れるところまでは仲が深まっていた。これはマルコに対してもそうだが、ある意味ではエレンもそう言えるだろう。
叩く事を止め、置かれたままのジャンの掌が温かくて気持ちが落ち着いてくる。ジャンには、ライナーに怒り迫られた事などは話していなかったが、俺のあからさまな態度から凡そ察しているに違いない。少し悪い気がした。なるべく普段通り振る舞えていれば良いんだけど。
「お前らしいね、ジャン。まあ、仮にそうだとしても、ライナーはともかくベルトルトは言うこと聞かなそうだ。それにアイツも一応憲兵志望だし」
「そうだっけか」
「興味無い事には淡白だよね、本当に」
「今はそんな話どうでもいいだろ。さぁご高説賜ろうじゃねぇか、なんでライナーは言うこと聞きそうなのか、ベルトルトは言う事を聞かなさそうなのか」
上半身がずしりと重くなって、危うく顎が食器に浸かりそうだった。ジャンが飄々とした物言いから抱き込むように肩を組んできたからだ。触れ合う頬が擽ったい。確かに内緒話をするには適当な距離かもしれないが、人様の顔がここまで至近距離にあると流石に心臓が跳ねる。何だかんだジャンは精悍な顔立ちだから余計に。
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