第1章 ベルトルト&ジャン(進撃/執着と嫉妬)
苦々しい表情を浮かべる姿にジャンの本心が多分に含まれている。裏表のない――ある意味で素直なこの男にとってみたら、大人しい顔をしておきながら腹に逸物を抱えているベルトルトが理解出来ないに違いない。人から生き方を強制された瞬間に跳ね返す性分だものな、ジャンは。
俺が『あくまで推察だ』と念を押すと、ジャンは『分かってるさ、当たり前だ』と言わんばかりに口角を上げた。頭の中が騒がしい思考回路で埋め尽くされてしまい、人間関係において明確な齟齬が生まれ易い俺の理解者たる、余裕のある態度だ。
「……そもそもコネ以前に俺はヤツらが苦手だ。とにかく身体がでかい。一方的に好かれたって怖いだけだよ」
「体躯に優れてるってだけで嫌われんのも可哀想になってきたな。ま、是正は観察眼に優れたヤツだから、背以外にも色々見えちまうんだろうけどよ」
「ジャンはちょうど良いサイズだから怖くないし、考え方も似てるし、俺の言わんとしてる事を即座に理解してくれるからすきだよ」
「だろうな。どこぞの誰かさんみたいに嫌われてるなら、こんなに近付けさせてもらえねェ筈だ。でもな、ちょうど良いサイズは余計だろ」
言うや否やジャンは俺の髪をぐしゃぐしゃに掻き回す。幸いにも絡まり乱れるほど長髪ではないから、精々生え際の流れが変わった程度だ。戯れ合い縺れた延長で俺からも肩を抱きにいけば、調子付いたヤツが肩を組み直し、俺の側頭部へ掌を差し込んで。心地好くて温かい指が這い回るのを受け入れながら二人で普段通り笑い合った。ライナーとベルトルトの殺気を一身に受け止めながら。それに気付けないまま。
終わり