第1章 ベルトルト&ジャン(進撃/執着と嫉妬)
「……」
「やあ、是正」
「……ん」
――ベルトルトが俺に好意を向けるのは、最近に限った事ではない。初めましての挨拶もそこそこに済ませた時機から信じられないくらい距離が近かった気がする。
でも俺はベルトルトが苦手だった。ジャンより少し背の低い俺とヤツとでは、その身長差に二十センチ以上の開きがある。心底その出来上がりきった身体に怯えていた。今しがたヤツの横に座った相方の、顔付きや体格の良さも充分恐ろしいが、高さがある分、圧迫感で勝っていると個人的には思う。
(……)
端から見れば俺の態度は、同期に対して素っ気ないだけに映るだろう。逸早くそれを見咎めたのはライナーで、ヤツらを無視し続けていた結果、獣が猛り狂ったような酷い顔で詰め寄られたっけ。瞳孔が興奮で沈みきっていて、ねっとりとした視線が無礼を俄然赦さないといった風だった。
なのに台詞は至って単純で、後先にも『ベルトルトに応えてやってくれないか』の一言のみ。壁際に追い込まれて退路を完全に塞がれていた俺は、それに反抗する気がさらさら起きず、何度も頷くことで拘束から逃れたのだ。
さて、そんな経緯があるので仕方なくベルトルトを振り仰ぎながら掌を振る。ライナーがこめかみの辺りだけ此方に向けて視線を寄越しているのが気まずい。まだ返事の方は憮然とした感が残ってしまうが、そこは頼むから聞き逃してほしい。やっぱりまだ怖いのだ、まるっと頭から食い付いてきそうな巨体が。
ベルトルトはそんな俺に全く気付かず、反応が有った事に純粋に感激している。光彩を色めかせたかと思えば、細めた瞼に瞳をほとんど隠して再び砂糖菓子のように微笑んだ。
その表情は銅貨何枚ぶん相当なんだ……と、意味の無い疑問を飲み込んで、胃痛を訴える腹部を無意識に撫でながら曖昧な笑顔を返してしまうのも、頼むから全力で見逃してほしい。
「ふー……」
溜め息を首に巻きながら体勢を戻すと、隣で大人しく頬杖をついていたジャンから空笑いを頂戴した。相変わらずアイツらに好かれてんな、なんて半笑いの下衆顔で唆されても悲しいだけだ。
しかも聞き捨てならないんだが、アイツらってなんだアイツらって。もしかしてライナーにも好かれてるって言いたいのだろうか。ふざけんな泣いて良いですか。
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