• テキストサイズ

日章旗のディライト(R18)

第1章 ベルトルト&ジャン(進撃/執着と嫉妬)



午後の訓練も恙無く終了した夕食どき、食堂で度々行われるジャンとエレンの喧嘩に、もはや誰も意識を向けない。訓練兵となって間も無く繰り広げられた初戦では、とんだ盛り上がりをみせたものだが、同じ文句、同じ言葉の往来に人々の耳と脳は慣れてしまっていた。
今回も例外なく同期達は平坦な心持ちのまま食器を手にして席に着いていく。巨人に関する知識を得た今、戦場に赴いて対抗すべきだと吠えるエレンと、そんな彼を死に急ぎ野郎と揶揄して内地での快適な生活を嘯くジャンの、いつもの衝突だと分かっているからだ。
「エレン、やめなさい」
「ジャン」
物事には始まりがあれば終わりもある。アッカーマンとライナーが慣れた様子で唸り合う二人を引き取りに行くのも見慣れた光景と言って良い。
エレンはアッカーマンにさっさと俵抱きされて席まで運ばれていったし、ジャンはライナーに首根っこを掴まれ、引きずられて来たかと思うと、俺の隣席に呆気なく放り込まれる。
潰れた蛙みたいな声を上げながら強制的に着席を余儀無くされたジャンは、絞まった喉元をわざとらしく摩って空咳を繰り返し、細めた三白眼でぎろりとライナーを睨み上げた。
エレンとの喧嘩の後で舌の根も渇かない内に、仲裁した巨躯へ恨み言を吐き捨てている。でも当人が豪快に笑ってさらりと受け流してしまうから、ジャンも結局詰め切れないで消化不良を起こした顔をするのが面白い。本当見ていて飽きないヤツ。
「ライナー」
蚊帳の外から呑気に一連の流れを眺めつつ、短い息を吐いていた俺の全神経は、ヤツの低い声を耳にした瞬間、反射的に鋭く敏感になった。
俺の背後に位置する長机へ腰を下ろすベルトルトが、着席の旨を含めてライナーを呼んだらしい。自分の髪を軽く掻き混ぜていたライナーは、名を呼び返して短く応答すると、あっさり踵を返す。
よせば良いのに去る後ろ姿を目で追ったものだから、此方を振り返っていたベルトルトとばっちり目が合った。ヤツはうっとりするような甘い微笑みを配べつつ、猫背のせいで判別しにくい分厚い上半身を揺らしながら、肩口の辺りで小さく手を振った。

/ 6ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp