第7章 甘味屋
さあ、今日は一日ぶりの甘味屋だ。華子さんに昨日の事を聞かなければ!
いつも以上に気合いを入れて仕事を終わらせ、早々と買い物に出る。実弥さんは稽古中だったが、一応声をかける。
「迷子になるなよォ」
稽古中にも関わらず、返事をしてくれた実弥さんに嬉しくなりながら、甘味屋へ向かう。赤い幟が見えると、ついつい小走りになる。
赤い暖簾をくぐると、華子さんが笑顔で迎えてくれる。
「ノブちゃん、いらっしゃい。今日は早いのね」
「おはようございます、華子さん。もう、昨日のことを聞きたくて聞きたくて。ちゃんと斉藤さんはお役に立てましたか?」
「ええ。とっても助かったわ。重い荷物も軽々持ってくれるものだから、いつもより多めに買えたわ」
「それなら良かったです。斉藤さん、喋りましたか?まさか、ほとんど喋らなかったなんて事はないですよね?」
不安になり、顔が強ばる。
「そうねぇ。ノブちゃんといる時に比べたら少ないけど。義雄さんは口数は少なかったけど、私の話をずっと、文句も言わずに聞いてくれたわ。私、お喋りだから、ずっと喋ってた気がするわ」
華子さんの頬がほんのり赤くなった気がする。
「斉藤さん、聞き上手ですから。華子さん、楽しかったですか?」
「ええ。でも、義雄さんは私の話をただ聞かされるばかりで、荷物もたくさん持たされて…。申し訳なかったわ」
「大丈夫ですよ!斉藤さん、力持ちだから荷物を持っても苦じゃないと思いますし。華子さんのお話をたくさん聞けて、楽しかったと思いますよ!」
「そうかしら?」
「はい!私が保証します」
「ノブちゃんに保証されるのなら、大丈夫そうね」
華子さんがふんわりと微笑む。あと一つ、聞いておかなければ!
「ところで華子さん。斉藤さんは次のお約束の話しました?」
「えっ?ええ。また買い出しをお手伝いしてくれることになったわ。断ったんだけどね、義雄さんが何度も言ってくれて。実際、手伝ってくれると本当に助かるし、それに…」
「それに?」
「…義雄さんとの買い出し、本当に楽しかったのよ」
ほんのり赤くなった頬で微笑む姿は、女の私でも見とれる程綺麗だ。これは思ったよりいい感じだ。斉藤さんも頑張ったようだし、このままいけば恋人になるのもそう遠くないかもしれない。