第6章 お屋敷での生活
【実弥side】
今日の指令も容易いものだった。十二鬼月でもなかった。やはり、隊士の質が落ちている。あんな雑魚鬼にやられてどうする。
イライラしながら屋敷に戻った。今日は夜明け前だから、流石にノブは起きていない。
一昨日の雨の日は驚いた。戻った時には起きていて、風呂に飯の準備までしてあった。十日程でこんなにできるようになるとは、全く想像できなかった。
記憶をなくし、鬼舞辻に狙われている可能性があるのに、ノブはいつも笑顔だ。あの斉藤から怒鳴られても、怖がったり泣くこともなかった。
まぁ、馬鹿なことも多いがなァ。
お館さまに言われたから、住まわせてやったが、ノブは干渉してくる事もない。まぁ、怪我した時は凄かったが…
何だかんだできるようになってきたら、俺の生活に合わせて仕事を進めている。意外と居心地がいいし、ノブの馬鹿な話を聞くのも悪くない。
自分の気持ちの変化に戸惑いはするが、まぁまだ一緒に生活する以上は楽な方がいい。
そんなことを考えながら部屋に戻ると、机にはまたおはぎと手紙が置いてある。
『さねみさん
お仕事お疲れさまでした。
私、やっと斉藤さんから合格
もらえました。最初は二週間
でできるようになるのか、
本当心配だったけど、何とか
なりました。
これからもよろしくおねがい
しますね。
やっと一人前になれたと思う
居候のノブより 』
「フッ。まだまだ半人前だろォが」
おはぎを口に入れながら、呟く。
本人には絶対言わねぇが、ノブの手紙を読むと、イライラした気持ちや鬼狩りの後の興奮した気持ちが少し落ち着く。下手くそな字に加えて、変な文章に毒気を抜かれる感じだ。
一人の時はなかなか寝つきにくいことも多かったが、ノブが来てからはあまりない。
時々、ノブからお袋のような温かさを感じることがある。もう何年も感じた事がなかった気持ちだ。
鬼を殲滅する。そのために俺の人生を捧げてきた。楽しむ事など必要ない。
今でもそう思っているが、この穏やかに過ごせる日常も存外悪くない。
俺はこんなことを考えるようになったのか、と愕然としたが、今更これに抗うのも難しい気がする。
そんなことを考えながら、最後の一口を頬張った。