第6章 お屋敷での生活
斉藤さんが帰っても、やることは残っている。残りの家事を済ませていると、実弥さんから声がかかる。
「ノブ、今日はいつもより早めに出る。飯の準備を頼む」
「鴉からの指令ですか?分かりました。もう準備できてるので、お部屋にお持ちしますね」
「ああ」
今日は指令が出たようだ。夕飯の準備を早めにしておいて良かった。いつも通り準備し、お盆にのせ実弥さんの部屋まで持っていく。
「実弥さん、夕食お持ちしましたよ」
「ああ」
すっと襖が開き、お盆を受け取ると、またすぐに襖を閉められる。少しずつ鬼狩りへ行く、風柱不死川実弥になってきていた。分かってはいるが、まだ慣れない。まだ怖いという感覚がつきまとう。
自室に戻り、早いが夕食を食べる。以前の息の詰まるような感覚はないが、やはり何か重苦しい雰囲気が纏わりつく。いつになったら慣れるのだろうか。いや、慣れる日は来るのだろうか。
そんなことを考えながら口に運んでいたが、いつの間にか食べ終わっていた。じっとしていてもどうにもならないので、台所に立ち片付けていく。
襖の開く音が聞こえ、振り替えると準備万端整えた実弥さんが部屋から出てきた。やはり息の詰まるような感覚は変わらない。でも怖さは、慣れたのだろう。前回よりましだ。
「実弥さん、行ってらっしゃいませ」
「行ってくる」
こちらを見ることもなく、一言残して出ていってしまった。もう見えなくなった後ろ姿に向かって、深々と頭を下げ、小声で呟く。
「無事に帰ってきてくださいね」
誰に聞かれるともなく呟いた言葉は、頭を上げた先に見えた夕陽に溶け込んでしまった。
実弥さんを見送った後も、いつもと変わらない日常だ。だいぶ慣れてきたものだから、早く準備が終わる。夜空に向かって実弥さんの無事を祈るのも、慣れてきたものだ。
ただ今日は布団に入ってから寝付くまでに少し時間があった。明日の斉藤さんはどうなるだろうかと考える。茹で蛸になりながらも何とか華子さんと話していたり、次の約束を取り付けようと奮闘する姿を想像する。斉藤さんからどうだったか聞けないのが残念だが、華子さんからどうだったか聞ける筈だ。明後日が楽しみだと思いながら、眠りについた。