第6章 お屋敷での生活
「良かったですね。実弥さんからも許可が出ました。斉藤さん、本当にありがとうございました。お陰さまで何とか生活できるようになりました。感謝してもしきれませんので、是非とも華子さんと仲良くなってくださいね」
顔がどうしてもにやけてしまう。
「おい、ノブ、絶対楽しんでるだろ?」
「そんなことないです。斉藤さんには幸せになって欲しいんですから。ね。信じてくださいよぉ」
「分かったよ。お前からの贈り物、明日は頑張ってくるさ」
「茹で蛸には気をつけて下さいね」
顔が緩みっぱなしだ。斉藤さんは何も言わず立ち上がると、私の頭を思い切り叩いた。
「…痛いー!!!痛いです!」
一通りのやり取りを見ていた実弥さんが見かねて話し出す。
「斉藤、今日で終わりだ。ノブの指導は大変だったろうが、よくやってくれた。礼を言う。今日はもう帰っていい」
「こちらこそ至らぬ点がありましたこと、申し訳なく思っております。大変お世話になりました。また何かございましたら、いつでも仰ってください。それではこれで失礼致します」
片膝をついた状態で斉藤さんは頭を下げる。それを見た実弥さんは部屋に戻って行った。襖の閉まる音がすると、すっと立ち上がる。
「じゃ、俺は帰るぞ。ノブ、これからも頑張れよ。何かあったら言えよ、お前は妹みたいなもんだからな」
「本当にありがとうございます、斉藤さん。また悩むことが出てきたら、相談させてくださいね、お兄ちゃん」
二人で向かい合って笑い合う。
「じゃあな」
「さようなら」
また明日も会うかのような別れだった。毎日言っていた『また明日』がないだけで。
明日からは一人だ。でも大丈夫。斉藤さんが教えてくれたのだから。一人でもやっていける。それに、何かあれば頼ってもいい筈だ。『お兄ちゃん』なんだから…
突然知らない場所に放り出された。誰も知らないし、私をしっている人もいない。
そんな中でできた初めての絆。ただそれだけで、こんなにも心が満たされ、元気が出るものなんだと、実感したのだった。