第6章 お屋敷での生活
その日は雨が降り続き、外には出られず、昼からも家の中のことをした。そろそろ夕方になる頃、斉藤さんが話し始める。
「よし、もう大丈夫だろう。ちょっと大雑把な部分はあるが、だいぶ良くなったし、何より気を付けるようにしている。朝も一人でよく考えて動いていたようだしな」
「えっ?じゃあ、もう大丈夫なんですか?」
「あとは、買い物だけだな。明日は一人で行って、帰ってこい。それで合格かどうか決める」
買い物は大丈夫になってきた。道順の紙さえあれば。
「分かりました!明日もがんばります!」
斉藤さんは今日のことを実弥さんに報告した後、帰っていった。外を見れば、小雨になっていた。
思ったより早くできるようになった。何とかなるもんだと、自分でも驚いている。早めの夕食を準備し、実弥さんに声をかける。
「実弥さん、夕食持ってきてもいいですか?」
「ああ」
お盆を持ち、実弥さんの部屋に向かう。
「実弥さん、持ってきましたよ」
「ありがとな」
お盆を受け取りながら、ぼそっと呟く。面と向かってお礼を言われたのは、初めてなんじゃないか。すぐに襖は閉まったので、緩んでしまった顔は実弥さんに見られなかった筈だ。
お礼を言われるためにしている訳ではないが、やっぱり言われると嬉しいものだ。少しは実弥さんの役に立っているのなら、尚更だ。実弥さんが日々穏やかに過ごせることができれば…そのお手伝いが少しでもできれば、と思う。
夕食の途中で、実弥さんの部屋の襖が開く音がした。もう出発の時間のようだ。
「行ってらっしゃいませ」
「行ってくる」
このやり取りも段々と馴染んできた。実弥さんもすんなり言ってくれるようになった気がする。今日もまた、実弥さんの無事を祈りながら、自分の身の回りのことをする。毎日同じことの繰り返しだ。
寝る前、夜空を見れば雨はあがっていた。今日は濡れずに仕事ができただろう。
無事を祈りながら、今日も布団の中で眠りについた。