第2章 暗闇からの光
だけど、また考える。
どう考えても夢だ。
現実に起こることではない。
だって、実弥さんがいる世界は本の中の世界だ。
そりゃ、トリップなんてできたら楽しいだろうなぁと考えていたことは認める。
夢小説なんやら好きな類いだ。
でもそれは現実ではないから楽しめること。
日常があってこそだ。
それが、日常が非日常に、非現実的なことが現実になっている。
これがパニックを起こさずにいられようか。
実弥さんの目をじっと見つめたまま、固まってしまった。
「大丈夫かァ。手ェつねったまま、喋らないし。何か喋ってくれ」
たぶん、動かない私に心配になったのだろう。
しゃがみこんで話しかけてくれる。
やっぱり優しい人だ。
「なんとか大丈夫です。でも全身痛くて、いまいち体に力が入らなくて…。申し訳ないのですが、起こしてもらえますか」
と言ったところで、思い直す。
めっちゃ私、怪しい人じゃん。説明しないと…と思って出たのがこれ。
「あっ、決して怪しいものではありません」
うん、怪しいよね。こんなこと言ったら特にね。
「ブッ、ハハハハハァ」
何か言われるかと思ったら、笑われた。
「確かに怪しい奴だなァ。こんな時間に道の真ん中で倒れてて。それなのに、自分で怪しくないって言われてもなァ。お前、どう考えたって怪しいぞォ」
こんなに実弥さんは笑えるんだ。
悪鬼滅刹を掲げていて、毎日毎日鬼退治に明け暮れていたとしても、日常は二十代の若者だ。
本の中では書かれない部分に触れ、自然と嬉しさと少しの悲しみが押し寄せてきた。
実弥さんの様子を見ている私の顔は、泣きたいような嬉しいような、何とも言えない顔だったと思う。