第6章 お屋敷での生活
部屋に戻って朝食を食べる。まだ掴まれた腕は痛い。私が泣いていたって、どうでもいいだろうに。今頃、聞くなんて、とりあえず気になっていたんだろう。
聞いた所で、どうこうできる訳じゃないのに…やっぱり優しい人だ。
それにしても泣き顔を見られたのは最悪だ。女が泣けば、それだけで武器になる。
涙を使って男を騙す…
そんな女を、そして、それに騙される男もたくさん見てきた。泣いている女は可愛いのだろう。でも、私はそんな女にはなりたくなくて、人前で泣かないようにしていた。
「泣きもしないで、可愛くも何ともねぇな」
何度言われた事だろう。何度一人になったとき、悔しくて泣いただろう。
それなのに、実弥さんに見られてしまった。恥ずかしくて仕方がないが、忘れてもらうしかない。
さぁ、笑顔だ!泣き顔を笑顔に塗り直してもらおう。
食べ終わり片付けをしていれば、斉藤さんがやってくる。
「おはよう!今日は早いな。もう食べ終わったのか?」
「はい。お先にいただきました。斉藤さんの分も準備できてるので、どうぞ。私はお洗濯してきます」
「今日は乾かないぞ」
「そうなんですけど、実弥さんの隊服がびしょ濡れで…とりあえず一度洗って軒下にでも干しておきます」
「分かった」
たらいに入った濡れた服を洗い、とりあえず干す。乾かないだろうが、雨で濡れたままよりはいいだろう。
台所に戻ると、斉藤さんは片付けをしていた。実弥さんの分まで洗ってある。
「今日は掃除ですね。買い物は今日はこの雨じゃ止めてた方が良さそうですね」
「そうだな。今日は手を出さないからな。ちゃんとやれよ!」
「試験でしたね!がんばります。早速お掃除しますね」
実弥さんの部屋以外は全部だ。無言で後ろから見られているのは緊張する。斉藤さんから指摘されまくっていたところはちゃんと気を付けるようになっている筈だ。
お昼前には何とか終わった。すぐに昼食の準備に取りかかる。朝のうちに準備していたので、すぐに出来上がる。
「斉藤さん、実弥さんに声かけてきますね」
襖は閉まったままなので、起きているのかわからない。
「実弥さん、昼食の準備できましたけど、起きてますかー?」
「…今起きた」
「ご飯持ってきていいですか?」
「…ああ」
反応がよくないし、声もいつもと違う。本当に起きたばかりなのだろう。