第6章 お屋敷での生活
「湯加減は大丈夫でしたか?」
台所から実弥さんに声をかける。
「ああ。流石に体が冷えきってたからなァ、助かった。でも、本当いつ起きたんだ?いつもより早くねぇか?」
「そうですね。今日は雨で暗くて、布団の中だといまいち時間が分からなくて。いつもより早かったですけど、目が覚めたので準備しただけですよ。身体が温まったなら良かったです。朝食もすぐ持って行きますね」
「ああ」
朝食をお盆に乗せ、実弥さんの部屋まで持っていく。今日は襖が開いており、部屋を覗くと実弥さんは日輪刀を拭いているところだった。
「実弥さん、朝食お持ちしましたけど、ちょっと早すぎましたね。すみません。机の上に置いておきますね」
「いや、もう終わるから大丈夫だァ」
机の上にお盆を置き、実弥さんの横に座る。
「この刀って、本当綺麗な色ですよね」
「そうかァ?」
「はい。この間の稽古を見せてもらった時、凄く綺麗な緑色でビックリしました」
「そういや、何で泣いてたんだァ?」
何で?あんな遠くなのに見えてた?いやいや、今頃蒸し返さないで欲しい。
「え゛ッ!な、泣いてませんよ。あんな遠くから見える訳ないでしょ。見間違いじゃないですかっ」
「その慌てよう、絶対泣いてただろォ。何でだァ?」
「いや、えっと…じゃあ、私ご飯食べてきますね」
逃げるが勝ちだ。
「まだ話の途中だァ!逃げるな」
立ち上がったのに、手首を掴まれ、逃げられない。実弥さんの目が怖い。立ったまま、顔は横を向き話し始める。
「…気づいたら涙が出てたんです。凄く綺麗でかっこよかったんですけど、実弥さんはここまでどれだけ頑張ってきたのかなぁ、って思って。あと…」
「ん?」
「実弥さんが出した風がとても心地好くて。凄く優しい風で、私を撫でてくれてるようで…。自分でも気づかないうちに涙が出てたんです。でももう大丈夫。泣きませんから!あー、泣き顔見られてたなんて、恥ずかし過ぎます。戻ってもいいですか」
「ああ」
掴まれていた腕が自由になり、襖まで来た所で振り返りながら言う。
「もう、絶対、忘れてくださいね!」
泣いた顔を見られた恥ずかしさから、急いで部屋に戻る。掴まれた腕はまだ少し痛かった。