第6章 お屋敷での生活
夕食の片付けをしていると、実弥さんの部屋の襖が空いた。もう出発するようだ。
「行ってらっしゃいませ」
「行ってくる」
夜の闇に消える実弥さんに向かって、もう一度深く頭を下げる。無事に帰って来ますようにと気持ちを込めて。
その後はいつもと変わらない。
寝る準備まで終わらせれば、夜空に向かって祈りを捧げる。
「今日も無事に帰って来てくれますように」
布団に入りもう一度祈る。やっぱり今日も睡魔には勝てず、すぐに眠りについてしまった。
雨音で目が覚める。いつから降りだしたのだろう。外は暗いが、身支度を済ませ実弥さんの部屋を見る。襖は開いたままなので、帰ってきていない。
そのまま風呂場へ行き、火を入れる。井戸から水を汲んで足せば、雨に打たれて冷えた身体もゆっくり温められるだろう。
一度台所に戻り、竈に火を入れる。何度か風呂場と台所を行き来すれば、お風呂はちょうどいい湯加減だ。
一度風呂の火を消し、台所で朝食の準備をする。ご飯も炊き上がり、味噌汁も出来た。時間があったので煮物も作った。さぁ、先に食べようかと思った時に、玄関が開く音が聞こえた。
急いで玄関に行くと、ずぶ濡れの実弥さんが私の顔を見て驚いた。
「ノブ、もう起きてるのかァ」
「お帰りなさい、実弥さん。ずぶ濡れですね。お風呂沸いてるので、そのまま行ってください。着替えとかは一応置いてますが、気に入らなかったら後で着替えて下さいね。はい、手拭い。軽く拭いてから行って貰えると助かります」
「…おう」
「濡れた服はたらいを置いてるので、そこに全部入れといて下さいね。刀はどうしますか?軽く拭いてお部屋に置いときましょうか?」
「いや、大丈夫だァ。とりあえずこのまま風呂場に行く」
「はい。分かりました」
実弥さんの返事を聞き、雑巾を取りに行く。お風呂を準備していて良かった。思ったよりずぶ濡れだった。雑巾を持つと、玄関からお風呂場までの濡れた足跡を拭いていく。手拭いで拭いてくれていたので、思ったほど濡れていなかった。
廊下を拭き終わり片付けをしていると、風呂場の戸が開く音がする。実弥さんがお風呂から上がってきたようだ。