第6章 お屋敷での生活
「実弥さん、お持ちしましたよ」
今度は襖が開き、実弥さんが顔を出す。まだ報告書を確認していたようだ。
「報告書は確認し終わったんですか?」
「ああ。さっきやっとなァ。本当、面倒くせぇ」
「何となく、実弥さんはじっとしてるより、身体を動かす方が合ってそうです」
「間違いねェ」
「じゃ、夜はお昼の分まで動かないといけませんね。がんばってくださいね」
「そういや、何で斉藤の休みに拘るんだァ?」
「斉藤さんには内緒ですよ。斉藤さん、甘味屋の娘さんの華子さんの事が好きみたいなんです。でもいつも行っても話しかけたりしないんです。華子さんに名前を呼ばれただけで茹で蛸になるんですよ」
茹で蛸の斉藤さんを思い出し、笑いながら話す。
「それで、茹で蛸ねぇ」
「そんな華子さんとそのお父さんが三日後に隣町まで買い出しに行くそうなんですが、そのお手伝いを斉藤さんにしてもらおうかと思って。お手伝いの約束までは私がして、その後は斉藤さんにがんばってもらおうと思って」
「だから休みねぇ」
「はい。お世話になったので、何かお礼をしたくって。あんな図体の割に華子さんの前に行くと、凄く大人しくなるんですよ」
「まぁ、あの姉ちゃん綺麗だもんなァ」
実弥さんが華子さんのことを綺麗だなんて。ちょっと淋しいけど、実弥さんが優先だ!
「えっ?実弥さん、華子さんのこと気になってました?そしたら三日後は斉藤さんじゃなくて、実弥さんが行きます?お父さんにも良いところを見てもらえますよ!」
「ハアア?俺はそんなこと言ってねぇ。ただ買いに行ったらいつもあの姉ちゃんがいるから、知ってるだけだァ。興味はねぇ!」
ちょっと安心した。華子さんが好きって言われたら、ちょっとやっぱりショックだもん。
「そうなんですねぇ。でも、実弥さんも気になる女性がいたら教えてくださいね。お手伝いできることは何でもしますから!」
「興味ねぇし、そんな暇はねぇ!」
「残念です。でも私、実弥さんにも幸せになってもらいたいんですよ。だから、気が変わったらまた教えてくださいね。それと実弥さん、甘味屋さんにお買い物に行ってたんですね。やっぱりおはぎが好きなんですよね?」
「…煩せェ!」
照れた実弥さんは一言だけ言い、襖を勢いよく閉めた。そんな実弥さんがかわいらしくて、ニヤニヤしながら部屋に戻ったのだった。