第6章 お屋敷での生活
【実弥side】
「それと、私が無理言って消毒させてもらったので、私からの贈り物があるんです。ちょっと待っててくださいね」
突然のことに流石の俺も理解ができない。贈り物だァ?
あいつは小走りで出ていき、何か持って戻ってきた。
「はい。おはぎです」
笑顔で渡してくる。おはぎが好きだとは言ってねェし、普通俺がおはぎを好きだと思うかァ。それを贈り物にするのはどうかと思うぞォ。
「ずっと思ってたが、何でおはぎなんだァ」
「えっ?おはぎは嫌いですか?私、おはぎ好きなんです。一番好きなのはあんこなんですけどね。実弥さんもずっと食べてくれてるので、勝手に好きなんだろうと思ってました。すみません…。お嫌いなら無理して食べなくて大丈夫ですよ。私が食べるんで!」
これ幸いとばかりに満面の笑みだ。このままだと俺はこいつがいる間、おはぎが食べられなくなっちまう。
「…誰も食べないとは言ってないッ!」
クソッ。こいつに俺の気持ちを見透かされているみてぇだ。恥ずかしさも相まって、横を向く。
「ふふっ。実弥さんもおはぎ好きなら良かったです。実弥さんの好物、帰ってきたら教えて下さいね。それまではおはぎを買って、実弥さんが無事に帰ってきてくれるのを待ってますから。今度は一緒に食べましょうね。約束ですよ」
一緒に食べる約束なんか、俺はしねぇぞォ。
だが、さっきの手当てと言い、こいつといると、俺は調子を狂わされっぱなしだ。でも、誰かが俺の帰りを待っててくれるというのも、悪い気はしねぇ。
「では、私は掃除をしてきます。実弥さん、時間はないかもしれませんが、ゆっくり食べてくださいね。あと、出発する時は、絶対声をかけてくださいね!」
「…分かった」
勝手に出発しようと考えていたが、先手を打たれた。仕方なく答えたが、こいつはこいつで俺のことを心配してくれてるんだろう。
「良かった。じゃ、私は斉藤さんに怒られまくってきますね!」
こういう所がこいつの面白いとこだァ。顔が緩んだが、見られてないからいいだろう。
「ノブ、…ありがとなァ」
恥ずかしさもあり、小さな声だったが、ノブには聞こえたようだ。
「どういたしまして!」
顔は見てねぇが、ノブの声だけで笑っているのが分かる。道場に走っていく音を聞きながら、いつもより一つ多いおはぎを口に入れた。