第6章 お屋敷での生活
【実弥side】
俺は子どもと言われたことに腹を立て、まんまと部屋に入る隙を作ってしまった。そんな憤りも合わさり、更に声に力が入る。
「何なんだァ、お前はァ。放っておけばいいだろう」
「何度も言ってますよね?傷は放っておいたら治りが悪くなるんです。お母さんが産んでくれた大事な体なんですから。はい、手を出してください」
何でこいつはこんなに言われても、俺の体の心配をするのか。心の奥がじんわりと暖かくなる。有無を言わせない物言いに、大人しく腕を差し出すさかなかった。
包帯を丁寧に取り、傷を見ると、あいつの顔が歪む。
「けっこう重症じゃないですか?縫われてるし。消毒しますね。染みると思いますけど、我慢して下さいね」
痛くないように、素早く、でも優しく手を動かしているようだ。その心遣いにまた心の奥が暖かくなる。
「下手くそだなァ」
包帯を巻くあいつに言う。斉藤がこいつは大雑把な性格だと言っていたが、その通りだ。
「私なりに頑張ってるんです。大丈夫、初めと終わりがきちんとできてたら、取れませんから」
「本当かァ?」
あいつの目を覗き込んで問うと、目を泳がせながら答える。
「…取れたら、実弥さんが巻いてください」
「俺の方がうまいな」
包帯を巻き終わると、今度は傷の辺りに手を当てられる。何か呟やいてるが、小さすぎて聞き取れない。
「何してんだァ」
「手当てですよ。薬がなかった昔は、怪我したり痛みのあるところに手を当てていたそうですよ。手当ては手を当てるって書くでしょ。消毒はしましたが、早く治るようにって手当てしたんですよ」
幼い頃、お袋もよくしてくれていたのを思い出す。お袋の手は優しくて温かかった。こいつの手も同じ位温かい。
「フンッ」
こいつのやりたいようにさせているのは気に食わねぇ。そう思い顔を横に向けるが、久方ぶりの温かさは名残惜しく、手はそのままにしてしまった。
また、あいつの両手が少しだけ力を込められる。
「早く治りますように…。はい、終わりましたよ」
すんなりと手を離され、拍子抜けし「あァ」としか言えなかった。先程までの温かさが手を離された途端、急速に冷えていく。