第6章 お屋敷での生活
【実弥side】
準備を終え、精神統一をしていた時に、外から声がかかる。
「実弥さん、食事をお持ちしました」
食事を受け取り、すぐに襖を閉める。先程のやり取りの気まずさもあり、無言になってしまった。
あいつが作った食事を食べる。
斉藤にだいぶ言われてるが、泣いたり根を上げたり逃げたりしてねぇ。それどころか、斉藤に懐いてやがる。斉藤の教え方が上手いのもあるが、たった何日で確実にできるようになってきている。
本当、記憶をなくし、一人でよくやってる。辛いこともあるだろうが、全くそんな素振りも見せねぇ。だからこそ、何であいつが泣いていたのが、気になって仕方ねぇ。
だが、今から鬼狩りだァ。他のことに現を抜かす訳にはいかない。
気合いを入れ直し、部屋から出る。
あいつは部屋の襖の側に立っていた。
「い…いってらっしゃいませ」
いつもと違う。小さくて、たどたどしい。俺に対する恐怖感が伝わってくる。
「…行ってくる」
いつぶりだろう、そんなことを言ったのは。見送られるのも、悪いもんじゃない。
でも、後ろで息を潜めながら見送るあいつは、今何を思っているのだろうか。明日からは俺のことを怖がってしまうのだろうか。
そう思うと、あいつの顔を見れない。振り返らず、鬼が待つ夜の闇へ進んでいった。
今日は担当地区の警備だったが、空が白み始めた所で屋敷に戻る。あいつは目が覚めてるなァ。寝息はなく、何度も寝返りしている。今日も部屋に戻るとおはぎと書き置きが置いてある。
『さねみさま
お仕事、お疲れさまでした。
疲れには甘いものが一番です。
食べたらゆっくり休んでくだ
さいね。 ノブ』
「やっぱ下手くそだよなぁ、字。昨日も会議の疲れには甘いものって、書いてなかったかァ」
書き置きを見ながら、ふと洩らす。机の引き出しに書き置きをしまい、おはぎを食べる。甘さが疲れた体に染み渡る。
「うめェ」
同じおはぎでも、他人が自分のためを思って準備してかれたものは、美味しさが増しているように感じた。
おはぎを食べ終わると、隣の部屋からは規則的な寝息が聞こえてきた。
「二度寝だなァ」
ニヤニヤしながら呟く。だが、その寝息を聞いていると、俺もいつの間にか寝てしまっていた。