第6章 お屋敷での生活
【実弥side】
稽古中、ふと視線を感じると、あいつが廊下に正座して見ていた。全く微動だにしないからさなままにしていたが、気づけばあいつは涙を流していた。それでも微動だにせず、涙はずっと目から溢れたままだ。
稽古を終えるとどれ程見ていたのだろう。辺りは綺麗な夕焼け空が広がっていた。
稽古を終えると、あいつはすぐに立ち上がりいなくなった。
「あいつ、なんで泣いてたんだァ」
一人呟く。自分の稽古を見ながら泣かれたら、いい気はしない。なぜ泣いていたのか気になり、台所へ向かう。
「あんな所でぼーっとしてたら、危ねぇぞォ」
「すみません。せっかくのお稽古の邪魔してしまいましたね」
俺の言ったことを、いつもと違って勝手に悪い方へ解釈してやがる。
「まぁ遠くから見るだけなら、邪魔にはならねぇ」
「本当ですか?また見てもいいですか?」
ころっと表情が変わる。こいつの方が子どもみたいじゃねぇかァ。
「面白いもんじゃねぇぞォ」
「実弥さんから目が離せなくなりましたよ!すごくカッコ良かったです。でもほとんど動きが速くて、全然分からなかったんですけどね。実弥さんが風を纏っていいて、風神さまみたいでしたよ」
「何だ、それはァ」
思ってもみない答えに曖昧に返答する。
「とにかくカッコよくて、綺麗で、風がとっても優しかったんです!」
「何言ってるんだァ、お前はァ…」
何なんだ、こいつは。面と向かってそんなことを言われれば、嬉しくない訳はない。だがそんなことを言われ慣れてない俺は、それを悟られないように敢えて呆れた感じで一言だけ言う。その一言を言い残して、さっさと部屋に戻った。
何とか誤魔化せただろう。だけど、何であいつはいつも恥ずかしげもなく、自分の気持ちをぶつけてくるんだァ…
火照った顔はまだ収まりそうにない。だが、結局あいつが何で泣いていたか、分からないままだァ。
まぁいい。もうすぐ夜だ。そろそろ鬼狩りに行かなければ。