第2章 暗闇からの光
【実弥side】
今日の鬼も雑魚鬼だった。
何で俺は十二鬼月に遭遇しないのだろう。
こればかりは運だと言われるが、つくづく俺は運が悪いのだろう。帰路につきながら考える。
真っ暗だった空もそろそろ明るくなり始めた。もうすぐ夜が明ける。
少し走る早さを上げる。
屋敷に戻ると、玄関前に黒い物体が見えた。
鬼か?
いや、気配が違う。
犬や動物の類いでもなさそうだ。
俺の屋敷前にゴミを置いていくような勇気のある奴もいないだろう。
では人間か?でもなぜ?
何か分からない物体に、殺気を飛ばしながら近づいた。
全く動かない。
泥だらけになっているが、人のようだ。
死んでるのかと思い、呼吸を確認すると、しっかりしている。
擦り傷は至るところにあるが、大きな怪我はなさそうだ。
なぜ、俺の屋敷の前で倒れてやがる。
面倒事はごめんだ。
そのまま気付かないふりをして、家に入ることはできる。
だが、それも面倒だと思いなおす。
「おい、起きろ。おい。こんなところで何で寝てやがるんだァ」
声はかけてみるが、全く起きない。
仕方なく、頬を軽く叩く。
「うーん」
声は出たが、目は開かない。
なんだ、こいつは。
早く帰りたいのに、俺の手を煩わせやがる。
もう一度、頬を軽く叩きながら、声をかける。
「おい、起きろ。起きないと、殺すぞォ」
「はいッ!」
思いの外、はっきりした声で返事が返ってきた。
と同時に、女と目が合う。
女は俺を見て驚いたようだ。
まぁ、この顔だ。怖がられるのは分かっている。だが、こいつは俺を見たまま、全く目を反らさない。
何なんだ、こいつは、さっきから。いつまでこのままなんだ。
だが、よく見れば、口をあけて間抜けな顔だ。
「フッ」
間抜けな顔に少し毒気を抜かれた実弥が鼻で笑う。
まだ驚いていて目を離さないノブは、そんな実弥には全く気づいていなかった。