第6章 お屋敷での生活
屋敷に戻ると、実弥さんは起きていた。
「斉藤、ノブ、鴉から指令がきた。準備が終わり次第発つ」
「承知致しました。お帰りは?」
「二、三日後だァ」
「準備するものはございますか?」
「ない」
「承知致しました」
二人の間で淡々と話が進んでいく。口が全く挟めない。終わった所で話し始める。
「実弥さん、じゃあ行く前に傷の手当てをさせてくださいね」
「はァァ?大丈夫だって言ってんだろォ!」
「いや。ダメです。昨日、言いましたよね?ちゃんと手当てしないと、治りが悪くなるんです。二、三日もいないなら尚更です!すぐ準備して、お部屋に行きますから。逃げちゃダメですよ」
「誰が逃げるかァ」
「じゃあ。斉藤さん。ちょっとお時間下さいね」
「ああ。俺は道場の掃除をしてくる」
「はい」
急いで薬箱を持ち、実弥さんの部屋に行く。襖は閉じられている。
「実弥さん、入りますよ」
「ダメだァ」
「諦めが悪いですね。消毒が痛いから嫌なんですか?子どもみたいですよ」
「誰が子どもだァ!」
実弥さんが怒鳴りながら襖を開けた。
「さぁさぁ。早く行かないと行けないんでしょ?すぐに終わりますから」
実弥さんの横をすり抜け、部屋に入り、畳に座る。実弥さんは諦めたのか、襖を閉め私の前に座る。
「何なんだァ、お前はァ。放っておけばいいだろう」
「何度も言ってますよね?傷は放っておいたら治りが悪くなるんです。お母さんが産んでくれた大事な体なんですから。はい、手を出してください」
「…」
先程の勢いはどこに行ったのか。実弥さんは大人しく腕を差し出す。巻いてある包帯を丁寧に取ると、傷が見えてきた。結構深そうだが、しっかり縫われているようだ。化膿している様子もない。しのぶさんに感謝だ。
「けっこう重症じゃないですか?縫われてるし。消毒しますね。染みると思いますけど、我慢して下さいね」
できるだけ素早く、傷に刺激を与えないように優しく手を動かす。実弥さんは大丈夫そうだ。消毒が終わったら、新しい包帯を巻く。
「下手くそだなァ」
「私なりに頑張ってるんです。大丈夫、初めと終わりがきちんとできてたら、取れませんから」
「本当かァ?」
ジロッと見られて、目が泳ぐ。
「…取れたら、実弥さんが巻いてください」
「俺の方がうまいな」
そうかもしれません。