第6章 お屋敷での生活
その斉藤さんを引っ張って、店から出る。これにも慣れたものだ。少し歩いたところで腕を引っ張り声をかける。
「斉藤さん!斉藤さん!!」
「…何だっ?」
「毎回毎回惚けないでくださいよ。これじゃ斉藤さんじゃなくて、茹で蛸さんですよ」
「何だとぉー!ノブ!」
「良かった。これで、今日は家まで惚けたままじゃないですね。華子さんに惚れてるのは分かりますが、毎回茹で蛸になってたら、なかなか次に進展しませんよ」
「…俺は、惚れてるとは言ってないぞ」
「いや、言われなくても分かりますよ。もうバレバレです。えっ?まさか、バレていないとでも思ってました?」
「…」
「明日は茹で蛸にならないでもらいたいものです。私と一緒に行けるのは、あと数えるだけですよ。その後は斉藤さんが頑張らないといけませんからね」
「…分かった」
「さぁ、帰りますよ!間違えてたら、教えて下さいね」
茹で蛸から幾分落ち着いた斉藤さんを置いて歩き出す。ちゃんと道順を書いた紙も見ながら帰る。
だが行く時の道順を反対から見るとなると、また頭が混乱する。最初の角を反対側に曲がり、斉藤さんに指摘されたところで思い至る。
「斉藤さん、すみません。この道順は帰りの分が書いてないので、いつまでたっても屋敷に帰れないと思います。なので、帰りは今日まで斉藤さんの説明をお願いします」
「勢い良かったのに、すぐ降参か。まぁ、無駄な歩き回るよりはいい判断だな。さぁ行くぞ」
早々に白旗を揚げて斉藤さんに教えてもらう。ただ反対なのだが、当たり前ながら行きとは違う。帰ったら、また教えてもらいながら書かないとなぁ、と思うノブだった。