第6章 お屋敷での生活
ほのかに甘い匂いが漂ってきたら、もうすぐだ。だが店先には赤い暖簾がかかっていない。
「あれー、もしかしてまだ開いてないんですかね?」
「いつも昼からだったからなぁ」
「甘い匂いはするからお店は開きますよ。とりあえず行ってみましょう」
店の前に着いたが、やはり暖簾はない。店の扉を確認すれば開く。顔を少し入れ、声をかける。
「すみませーん」
「おい、何してるんだ、ノブ」
「いや、聞いてみようと思って…」
店の中からバタバタと出てくる音がする。
「はぁーい。お待たせして、すみません。どちら様…あらノブちゃんと斉藤さん。今日はお早いんですね」
「すみません、華子さん。お忙しいのに声をかけてしまって」
「大丈夫よ!もう開ける所だったから。今日もおはぎかしら」
「はい。また三つ頂けますか?急ぎではないので、お店の準備ができてからで大丈夫ですよ」
「じゃあ、店の中で待っててもらえる。先に開店準備を終わらせるわ」
「はい。ゆっくり待たせて頂きます」
言われた通り、店の中の椅子で待つ。華子さんはよく働くし、手際がよい。それをぼーっと眺める斉藤さんからを見るのが楽しかった。
「お客さんかい?」
中年の男性がおはぎやお饅頭を持って裏から出てきた。
「お店が開いてないうちから押し掛けてすみません。早くおはぎが食べたくってきてしまいました。華子さんに無理言ってここで待たせていただいています」
「いやいや、大丈夫だよ。それよりうちの甘味を食べたい一心で、こんなに早くから来てくれるなんて、こっちとしても嬉しい限りだよ。おはぎが好きなのかい?」
おじさんは持っていた甘味を置きながら、話しかけてくる。
「はい。とっても!」
「そうかい。そりゃ良かった」