第6章 お屋敷での生活
「あとは…」
昔からだが、私は独り言が多い。確認しながらと言う意味もあるのだが、静かすぎるのが苦手と言うのもある。
現代と違って、車や救急車のサイレンの音は聞こえない。時々、犬の遠吠えが聞こえる位で、本当に静かだ。
家は賑やかだった。いや煩すぎて、少しは静かにして欲しいと思うこともあった。夫は物静かな人だったけど、子どもたちは思い思いに喋り続けていた。ご飯を食べる時と寝た時しか、子どもたちが静かになることはなかった。でもその煩さが、今は懐かしい。
涙が頬を伝う。
皆、どうしているだろう。
私は一体どうなっているのだろう。
死んでいたとしたら、残された夫と子どもの悲しみはいかほどだろう。突然の状況に受け入れられないまま、夫には苦労をかけてしまっているだろう。
自分ではどうしようもできない状況だからこそ、できるだけ考えずにいた。自分ができることを…今この世界でできることを…と。
でも、今日は実弥さんの稽古を見てから、色々と考え込んでしまっている。涙も我慢していたのに、一度出てしまうと、溢れてきてしまう。
考えないといけない事ばかりだけど、目を背けていた。
今できることをする。それが一番だ。
でも、少しずつ自分の気持ちを整理するために、考えることも必要だ。
夜は一人だ。静かだし、考えるには丁度いい。泣いたとしても気付かれることもない。
昼間はできることを一生懸命して、夜は気持ちを少しずつ整理していこう。
考えがまとまると、少しだけ落ち着いてきた。涙を拭き、気合いを入れるために声を出す。
「よし、ノブ。大丈夫だ。最終的にはうまく行く!がんばれ!よぉーし!!」
元々大雑把な性格だ!最終的にはうまく行くと思う。
声に出せば、気合いも入る。
実弥さんの部屋に今日もおはぎを準備した。書き置きも一緒にだ。
無事に帰ってきてくれるよう、夜空に向かって祈る。長かった一日が今日も終わる。布団に入ればすぐに深い眠りに落ちていった。