第6章 お屋敷での生活
さて、食べようかと思った時、襖の開く音がした。今から行くのだろう。急いで立ち上がり、襖の側に行く。
実弥さんは圧倒的な威圧感を漂わせていた。目が合っただけで殺されてしまうのでは、と思わせる程だ。
これが風柱、不死川実弥…。
初めての感覚に息が詰まり、喉の奥が苦しい。声を出そうとしてもうまく出せない。
「い…いってらっしゃいませ」
何とか出した声はいつもと違い、小さくて、とても情けなかった。まだ息が詰まる。
「…行ってくる」
その一言だけを残し、振り返ることもなく、実弥さんは夜の闇へ消えていった。
「…はぁ~っ…」
実弥さんがいなくなると威圧感からも解放される。喉の奥の詰まりが解消され、息ができるようになった。深呼吸をすると共に、その場にへなへなと座り込んでしまった。
正直、とても怖かった。
最初に会った時でさえ、口調はきついもののどこか温かみがあり、恐怖感はなかった。斉藤さんが実弥さんは怖いと言っていても、そんなことはないと本当に思っていた。実弥さんは優しい人だと知っていたし、実際に会ってそう実感していたから。
…でも、違った。
風柱である実弥さんは全く違う人だった。
目付きは鋭く、優しさの欠片も見当たらない。時々緩んでいた口元も、きゅっと閉じられている。体から放たれるオーラは、触らなくても切れるのではないかと思わせる位、刺々しいものだった。
『鬼を殲滅する』
実弥さんのその想いは人一倍強い。その想いが強いからこそ、今の実弥さんがあるのだろう。その想いがあるからこそ、優しさはいらないのだ。
でも、鬼狩りに全てを捧げる実弥さんは、どれだけ自分を犠牲にしているのだろう。
そう考えたところで、実弥さんにはここに至るまでの計り知れない想いがあるのだ。私が理解しようとしても、どうしても理解できない想いがあるのだ。
これ以上考えた所で、鬼狩りに行く実弥さんに対して自分ができることはない。無力感が押し寄せ、涙が止めどなく溢れる。
ただ、一つできることがあるとすれば、無事に帰ってきてくれるように祈るだけだ。