第6章 お屋敷での生活
どれ程見ていたのだろう。辺りは綺麗な夕焼け空が広がっていた。
実弥さんの動きが止まり、私の顔を撫でていた風もふ止まった。稽古が終わったようだ。
我に返ると思った以上に泣いてしまっている自分に苦笑いしか出ない。急いで涙を拭き、台所に戻る。
夜になれば実弥さんは鬼狩りに出る。その前に腹ごしらえだ。味噌汁を温めなおす間に、おにぎりと漬け物を皿に置く。ついでに自分の晩ご飯も用意しておく。
「あんな所でぼーっとしてたら、危ねぇぞォ」
遠くから見ていたが、実弥さんは気付いていたようだ。やっぱり稽古の邪魔をしてしまったと、落ち込む。
「すみません。せっかくのお稽古の邪魔してしまいましたね」
「まぁ遠くから見るだけなら、邪魔にはならねぇ」
「本当ですか?また見てもいいですか?」
また見れるんだ!嬉しい。
「面白いもんじゃねぇぞォ」
「実弥さんから目が離せなくなりましたよ!すごくカッコ良かったです。でもほとんど動きが速くて、全然分からなかったんですけどね。実弥さんが風を纏っていいて、風神さまみたいでしたよ」
「何だ、それはァ」
「とにかくカッコよくて、綺麗で、風がとっても優しかったんです!」
「何言ってるんだァ、お前はァ…」
稽古中の鋭い眼差しではなく、呆れ顔だ。準備もあるのだろう。そのまま何も言わず、部屋に戻って行った。
もうすぐ夜になる。実弥さんは今から鬼狩りだ。
温め直した味噌汁を少なめにお椀に入れ、おにぎりと一緒に部屋まで持っていく。
準備をしているのだろう。襖が閉まっている。
「実弥さん、食事をお持ちしました」
スッと襖が開き、隊服に着替えた実弥さんが出てきた。無言で受け取り、また襖が閉められる。
さっきの呆れ顔から、鋭い顔つきに変わっていた。邪魔をしてはいけない。
私は私の事をしなければならない。藤の花のお香を焚き、台所に戻る。自分の夕食を持ち、部屋に持っていく。実弥さんが出発するのを確認するため、襖は開けたままだ。