第6章 お屋敷での生活
それから私達は少し早い昼食を食べて、買い物に出発する。
「さぁ、行け」
斉藤さんがニヤニヤしながら言う。
「はい…」
気が重いが、仕方がない。足取りは重めだが、歩き始める。だがすぐに後ろから声がかかる。
「おい、そこは左だ」
すぐに間違え、斉藤さんの訂正が入る。
「そこは右」
「なぜ真っ直ぐ行く?」
「左だ、左」
「何度行ったら分かる?そこはさっき通っただろう!」
「お前、わざとだろ?嫌がらせか?」
とうとう、斉藤さんの声に怒気が混じってきた。
「真面目にやってますよ。本当に方向音痴なんです…」
実弥さんの屋敷は入り込んだ場所にあった。周囲の家や壁が似ていることも、迷う原因だ。どうしても全部同じに見える。
「ここまでとは…毎日行っても覚えられるのか?」
「分かりません。今日帰ったら、道順を教えてください!紙に書いて持ってきます」
「そうだな。これじゃ何日あっても足りない。今日はもう一度俺が説明しながら歩くぞ」
「お願いします~」
斉藤さんは諦め、昨日と同じように一緒に歩く。違うのは、曲がるポイントをより多くの情報で教えてくれることだ。何かしらのキーワードが曲がるポイントとして覚えられないか、考えてくれていたのだ。
何とか商店まで着いた所で、また一人でお店を探しながら買い物をする。ここでは家やお店が様々なので、何となく覚えていた。
「店の辺りは大丈夫そうだな。問題はここにたどりつくまでか」
「はい。あとは甘味屋さんに行くだけです!行きましょう」
「店の場所、分かるのかー?」
「バッチリです!」
少し歩くと赤い暖簾の店が見えてくる。ほのかにあんこの甘い匂いがする。
暖簾を潜り店に入ると、看板娘のお姉さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ!あ、昨日のお嬢さん。また来てくれたのね、ありがとう」
「お姉さん、また買いに来ました!おはぎ、とっても美味しかったです」
「良かったわ。今日は何にいたしましょうか」
「今日もおはぎを三つお願いします!」
「はい。少々お待ちくださいね」
斉藤さんはお姉さんに釘付けだ。目がずっと追っている。顔はやっぱりほんのり赤い。
「覚えててくれましたね、斉藤さん」
ヒソヒソと話しかける。
「おう」
斉藤さんは照れ隠しのためか、横を向いた。