第23章 岩柱のお屋敷
【実弥side】
あいつを追い出してから、十日程経った。
毎日が静かだ。
屋敷の事を任せっきりにしていたが、俺は飯は作れるし、洗濯もできる。
あいつが来る前はやってた事だァ。
だが、それらに時間を取られるのが、こんなにも苦になるとは。
アァ、何もかも苛つく。
「おはようございます。斉藤です」
隠が来るのは、今日だったか。
玄関に向かえば、斉藤と、もう一人立っていた。
「斉藤か。前と同じで頼む」
斉藤は仕事ができる。これだけ言っておけば、問題ない。
「はい。それと、次回からはこの村上が不死川様のお屋敷の担当になりますので、今日は引き継ぎも兼ねて二人で入らせて頂きます」
「よろし…」
「アァッ?」
寝耳に水の話で、睨みつけるが、斉藤は平然とした表情のまま淡々と言葉を出していく。
「不死川様からの勧めもありましたので、今月いっぱいで辞めさせて頂くようになりました。では、仕事に入らせて頂きます」
「…アァ」
そういえばそんな事を口走ったか。
斉藤が辞める。
無駄口も叩かず、仕事もきっちりこなすから、良かったが。
横にいた隠は、斉藤に隠れるようにしていたから、使い物にはならんだろう。
稽古が終わり、部屋に戻る途中で、不快な音が耳に入ってくる。ガチャガチャと物を触る音、ドスドスとした足音。
静寂に包まれていた屋敷を壊すその音達に、更に苛立ちが募っていく。
部屋に戻ってからも、苛ついた気持ちが収まることはなく、その気分のままにドカリと腰を下ろす。
また音が耳に入ってくる。
「煩ェッ!」
そう吐き出せば、ピタッと音が止む。
聞こえてしまったのだろう。そこからは音は鳴るが、少なくなった。それでも不快なのは変わりがない。
「クソッ!」
どうにもならない苛立ちを吐き出した。
その時だ。
「風柱、手紙ヲ預カッテキタワヨ」
音もなく、部屋に入って来たのは、ノブについている鴉だ。毎回、その言葉だけを発して、手紙を置いて去っていく。俺の返事を聞くこともない。
ノブは追い出されたと言うのに、毎日のように手紙を送ってくる。