第23章 岩柱のお屋敷
【実弥side】
無造作に畳の上に置かれた手紙を手に取る。
『実弥さん。お元気ですか。
ひめじまさんのお屋しきでの生活もだいぶなれてきました。
でも山の中なので、朝晩は寒いです。
実弥さんもお体ご自愛下さいね』
「相変わらず汚ェ字」
練習するといい、毎日のように書いていたが、全く上達する気配はねぇ。未だに画数の多い漢字は書きやしない。
小さな子どもより下手だが、結局全く書けねぇ俺が言った所で説得力は皆無だ。
俺が追い出したというのに、翌日に手紙が届いた時には流石に俺も驚いた。
『実弥さん。お元気ですか。
そう書きましたが、昨日お会いしてますね。
色々と怒らせてしまって、すみませんでした。
結局、私はひめじまさんの所でお世話になることになりました。お館さまからは当分の間と言われてます。
次はどこに行くんでしょうね。』
いつもと変わらない、日記のような内容に、苛立ちが呆れに変わったのを思い出す。
自分の事なのにどこか他人の事を語るような口調に、突っ込みたくなった。
その後も毎日とは言わないが、2日も開けずに手紙が届く。
『実弥さん。お元気ですか。
やっとひめじまさんのお屋しきの部屋の位置を覚えました。もう屋しきの中で迷子になりませんよ。』
『実弥さん。お元気ですか。
お怪我とかしてませんか?
木蓮に聞いたのですが、そんな情報はないと言われたので、安心しています。』
『実弥さん。お元気ですか。
昨日はひめじまさんの尺八を聞きました。
初めての聞きました。
さっき、お隣のおばあちゃんにうるさかったと言われました。』
『実弥さん。お元気ですか。
今日は玄弥くんが滝行をしている山に連れて行ってくれました。
水はかなり冷たかったです。
流石に私は滝行はしませんでした。』
『実弥さん。お元気ですか。
今日はひめじまさんからお経を教えてもらいました。
本も貸していただいたのですが、難しいですね。
玄弥くんはすらすらと言えます。集中するのに良いそうです。
私はイライラしそうです。』
毎回手紙が来る度に、追い出された相手に友にでも送るような手紙を送ってくるなんて、どういう神経だと思った。
だが、ノブだから、仕方ないと結局そこに思い至る。
あいつに常識を求める方が間違ってる。