第23章 岩柱のお屋敷
悲鳴嶼さんは、私が当分の間しかいないから、そう言っただけなのかもしれないけど。
私には、頼らない。
どうせすぐいなくなるから、頼らない。
今まで通り。
私がいてもいなくても、変わらない。そんな日々が過ぎていくだけ。
何だかそんな風に、聞こえてしまった。
あぁ、間違いなく、心が荒んでいる。
私がちょっと捻くれて受け取ってしまっただけだ。
悲鳴嶼さんも優しい人だ。
私にそこまでしなくていい、無理しなくていいと、いう意味で言っただけだと思うようにしよう。
気にしない、気にしない。
考えない、考えない。
パチンッ!
「痛った〜」
両頬を叩けば、思いの外力を入れ過ぎた様で、声が出る。
でも気持ちが切り替わった。
「玄弥くんに日々の仕事を聞きに行こう」
そう呟いてから、動き出す。
体を動かせば、考え込む時間なんてなくなる。だから、今はがむしゃらに動いていたい。
当てもなく動き始めた私が、玄弥くんに出会えたのは、かなり経ってからだった。
「馬鹿だろう、お前」
盛大にお屋敷内迷った挙げ句、庭や滝の入口の辺りをウロウロしていた所で、玄弥くんと会ったのだが、開口一番この言葉だ。
「えーそんな事はないと思うけど」
「屋敷で迷子になるって、どんだけだよッ」
「だって、悲鳴嶼さんのお屋敷、入り組んでるじゃない?」
「だとしてもだ。覚えるだろ」
「そこがね〜、方向音痴には難しいのよ。もう少ししたら慣れる筈だから大丈夫!」
「どこがだ。で、何の用だ?」
「当分の間、ここでご厄介になることになったんで、家事全般どんな事してたか教えてくれる?悲鳴嶼さんからここにいる間は家事をして欲しいって言われて」
「やっぱりここにいるのかよ」
何か呟いていたけど、詳しくは聞き取れなかった。まぁ、このタイミングじゃいいことではないとは思うけど。
一応聞いてみる。
「何か言った?」
「いや。じゃ、教えるから、ついてこい」
そう言って、結局台所に戻ってきた。嫌嫌ながらだったけど、日々の仕事を教えてくれた。結構細かくて、丁寧だった。
ついでに屋敷の近くのお店も一緒に連れて行ってくれた。