第23章 岩柱のお屋敷
「あぁ。それと、ここで生活する間は、家事をして欲しいのだが」
「大丈夫です。実弥さんのお屋敷でもしてましたし。させて頂けた方が、私としても助かります。さっきもお伝えしたように、場所が変わっただけですから、気になさらないで下さい」
「うん。では、お願いしよう。家事は玄弥に任せているから、詳細は玄弥に確認するといい」
「はい」
何か仕事があることは本当に助かる。何も考えずに何かに没頭できることがあれば、あまり余計な事は考えずに済むし、居候という立場からすると、少しだけ日々が過ごしやすくなる。
「そう言えば、三井は、何か必要な物はないか?」
突然の質問に、少しだけ驚きつつも、せっかくの申し出だからと考えてみる。
「えぇっと、必要な物は特に思いつかないですけど。あ、もしよろしければ、お屋敷にある裁縫道具を貸して頂きたいです」
「裁縫道具?」
「はい。趣味、ではないんですけど、縫い物は好きで。実弥さんのお屋敷にいる時も繕い物とかさせて貰ってたんですよ」
「そうか。では、それも玄弥に聞くといい」
「ありがとうございます。悲鳴嶼さんも何か繕い物とかあったら言って下さいね。新しい褌でも縫いますよ」
「あぁ。何かあれば、お願いしよう」
少しだけ図々しく言えば、悲鳴嶼さんは少しだけ驚いた表情をさせて、だけど柔らかく笑って答えてくれた。
「はい。いつでも言って下さいね」
心の底からそう思う。
「それとお館様からの言伝だ。『ノブの思うままに進みなさい。実弥の事を頼むよ』だそうだ」
お館様からの『実弥の事を頼む』というフレーズは、聞きようによっては誤解されるフレーズだ。随分と落ち着いたと思うけど、みんな私が嫁だと誤解していたし。いや、多分また嫁だと思われてるだろうけど。
それからすると、これはまた更に落ち着いていた火に油を注ぎかねない言葉だ。
お館様の事だから、意図して言っている気もするけど。
でも今はそんな事よりも、この言葉は、今の私が一番欲しかった言葉な気がする。
私に対して発されたこの言葉は、実弥さんの為に動いていいと、お館様が許可してくれているように思える。
私は最後まで、実弥さんの為に足掻き続けていいようだ。